「将来保健師として働きたい」「保健師ってどんな仕事をしているの?」
私たちが保健師と聞いて最初に思いつくのが学校の保健室でお世話になった保健の先生ではないでしょうか。保健師の活躍する場所は学校の保健室にとどまらず、行政機関や企業、病院など多岐に渡ります。看護師のキャリアを積んでから保健師を目指す人も多い人気の高い職業です。
今回は保健師の気になる仕事内容や年収、必要とされる国家試験について詳しくご紹介します。
もくじ
保健師とは地域の健康サポーター
保健師とは人々の病気の「予防」と「対策」という観点から、地域の人々の健康をサポートする仕事です。保健師は一般的に各市区町村の保健所や保健センターに勤務したり、学校や病院、企業に勤務したりと幅広い活躍の場所があります。傷病者の治療補助を行う看護師とは異なり、保健師は保健指導や相談を通して疾病の予防や健康維持のための活動を行っています。
保健師は看護師や助産師と同じカテゴリーに分類されていますが、保健師という職業の歴史は他の2つに比べると新しいと言えます。1941年に「保健婦」という名称でスタートし、2002年の法律改正により保健師と呼ばれるようになりました。
長年保健婦と呼ばれていた職業のため女性が就く仕事というイメージが強いですが、近年では男性も保健師として活躍し始めています。現在では女性の保健師約52000人に対し、男性の保健師は約1400人在籍しています。女性に比べるとまだまだ男性の保健師は少数ですが、多様化する社会のニーズに合わせて男性の保健師の需要も増えてきました。
保健師の職域が拡大するにつれ、保健所だけでなく産業保健や学校保健の現場でも活動の場が広がっています。従って「男性の保健師だからこそ相談しやすい」という人々の声が増えているのです。保健師は性別を問わずやりがいを持って働ける将来性のある仕事と言えます。
保健師の就職先と仕事内容
保健師として活躍できる就職先は広がっています。以下に現在の就職先として一般的な職場をご紹介します。
行政保健師
行政保健師は保健師の就職先で最も多い職域です。保健師資格を持った人の約半数以上が行政保健師を選択しています。主に保健所や保健センター、地域の支援センターなどといった公的機関で公務員として採用されます。また国公立の学校の保健師も行政保健師です。具体的な仕事内容は配属先によって異なりますが、大きく分けて「医療・健康に関する業務」「社会福祉に関する業務」があります。
医療・健康に関する業務
- 地域の人々の健康増進:健康診断・各種健康教室・食生活指導など
- 伝染病や感染症の予防対策:伝染病や感染症の予防(検査を含む)・HIVや結核などの感染症予防の啓蒙活動および相談など
- 疾病知識の普及活動:地域の健康に関する講演会などを開催
社会福祉に関する業務
- 母子健康:母子の健康調査(家庭訪問含む)・子育て相談/支援・育児教室などの開催・妊産婦相談・育児支援など
- 精神保健福祉:うつ病を始めとした精神疾患の相談・支援制度の案内や手続きなど
- 介護:要介護者に関する相談・支援制度の案内や手続きなど
産業保健師
産業保健師は主に企業の医務室や健康保険組合で働きます。企業に就職するため、公務員ではなく保健師の資格を持っている人が就職できます。企業には保健師を雇用しなければならないという法律はありませんが、大手企業や福利厚生の充実した企業は保健師を雇用している場合が多いでしょう。産業医と連携し従業員の心身の健康をサポートする業務を通して、会社全体のより良い職場環境作りに貢献しています。
産業保健師の業務
就職先の企業の方針により業務内容は異なりますが、主に以下の業務を担います。
- 従業員の健康相談
- 産業医との連携(健康に不安を抱える従業員をスムーズに産業医へ引き継ぐ)
- 健康診断でグレーゾーン(生活習慣病につながる診断結果)の従業員に対する保健指導
- 社内向け健康セミナーなどの企画・開催
- 事務処理など
病院保健師
主に大きな総合病院や精神科を持つ病院、訪問看護サービスを行っている病院も保健師の就職先です。保健師の資格を持っている人が就職できます。かつての病院は医師と看護師が働く場でしたが、病院の業務拡大が進むにつれて役割分担が必要となり保健師も採用されるようになりました。行政保健師と比べると病院保健師の人数は少ないですが、高齢化社会に伴い今後保健師を導入する病院は増えていくでしょう。
また医師や看護師の業務負担を軽減する目的で、「臨床病院保健師」を取り入れる病院も増えています。医師でなくては行えない法律で定められた業務を除き、保健師が積極的に幅広い病院の業務を行うというものです。
病院保健師の業務
- 健康管理・保健指導(病院で働く全職員や患者とその家族に対する健康管理、保健指導)
- 必要に応じた患者の自宅訪問
- 健康診断(検診センターを持つ病院で受診者の対応や指導、採血や心電図、血圧測定)
- 訪問看護ステーションで在宅療養患者の生活サポート業務
- 退院在宅調整会議への参加(入院患者の退院後の生活をサポート)
- 伝染病対策室の運営(病院内での院内感染を防止する対策を立てる)など
臨床保健師の業務
これまで医師や看護師が行っていた業務の一部を担います。
- 入院の可否の優先順位決定
- 治療計画の立案
- 診断医・処方医・処置医の選択
- ICや記録全般に関する業務など
学校保健師
学校保健師の就職先は主に小学校から高校、専門学校や大学となり、私立の学校であれば保健師免許のみで就職できます。各学校の保健室に勤務し、生徒だけでなく教職員の健康維持を目的とした活動を行います。体調不良やけがの応急処置、保健室登校児の対応、心身の不安に対する相談が主な仕事です。保健師の資格に加えて養護教諭の資格を持っている人は、国公立の学校で働くこともできます。
学校保健師の業務
- 体調不良やけがの応急処置
- 教職員や生徒に対する保健指導
- 災害時などに使用する備品の準備や点検
- 身体やメンタルヘルスの相談
- 健康診断のサポートなど
保健師になるためには2つの国家資格が必要
保健師になるには「看護師免許」と「保健師免許」の2つの国家資格が必要となります。これら2つの国家資格を取得し保健師となるまでの道のりを見ていきましょう。また各国家試験の合格率や内容も併せてご紹介します。
保健師になるまでの進路
保健師になるには看護師免許と保健師免許を取得できる進路を選ぶ必要があります。主に以下の2つのルートで保健師になることができます。
他の職業に比べて進路が少し複雑であるため、しっかりと把握しておきましょう。
4年制大学
高等学校卒業
↓
4年制大学の看護学部入学・卒業(4年制で看護学部のある大学であれば看護師と保健師の総合カリキュラムがある)
↓
国家試験「看護師免許」「保健師免許」両方を受験・合格(看護師免許に合格しなければ保健師免許試験が合格の場合でも保健師にはなれない)
↓
行政保健師を目指す場合:公務員試験受験
その他保健師を目指す場合:企業や病院、学校の採用試験
↓
各職域で保健師として勤務
※看護師免許と保健師免許を同時期に受験する必要があるため、勉強がかなり忙しいという特徴があります。しかし保健師を目指すには最短のルートであるメリットもあります。
3年制短大・専門学校
高等学校卒業
↓
看護師養成課程のある3年制短期大学および専門学校入学・卒業
↓
国家試験「看護師免許」を受験・合格(このまま看護師としてキャリアを積んでから保健師を目指す人も多数)
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1年制の保健師養成専門学校および4年制大学の看護学部3年次に編入
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国家試験「保健師免許」を受験・合格(保健師免許申請)
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行政保健師を目指す場合:公務員試験受験
その他保健師を目指す場合:企業や病院、学校の採用試験
↓
各職域で保健師として勤務
保健師免許の国家試験合格率と内容
保健師国家試験の合格率は例年約80~90%前後と高く、2021年度の合格率は94.3%という結果になりました。高い合格率だから難易度が低いというわけではなく、受験するにあたり看護師免許も必要となるため保健師としての知識や技術をあらかじめ身につけている受験者が多いためです。
保健師国家試験内容
合格のボーダーラインは各科目約70%以上の得点が必要と言われています。
- 公衆衛生看護学:地域社会の乳幼児から高齢者まで全ての年齢層に対する健康維持促進活動について・保健医療施策の仕組みなど
- 疫学:社会における感染症や伝染病について・疫病の流行発生の考察など
- 保健統計学:疫学調査に基づいたデータの解析について
- 保健医療福祉行政論:保健医療福祉行政の仕組みや制度の歴史と内容について・保健福祉計画についてなど
看護師免許の国家試験合格率と内容
看護師国家試験の合格率は例年約90%であり、2021年度の合格率は94.5%という結果になりました。看護師は専門性の高い職業であるため合格するには高度な知識が必要です。しかし大学や専門学校での勉強にしっかりと取り組めば十分に合格できる可能性が高いと言って良いでしょう。
看護師国家試験内容
合格のボーダーラインは必修問題約80%以上、一般問題と状況設定問題は70%以上の得点が必要と言われています。
- 必修問題:看護学全般に関する基礎的な問題
- 一般問題:指定された11科目から出題される一問一答形式の問題
- 状況設定問題:指定された7科目について看護の現場で起こりうる状況を設定し、それに対する理解力や判断力を問う問題
保健師の職域ごとの給与・年収
保健師の年収は年齢や勤務先などによって異なります。今回は職域ごとに分けた保健師の給与や年収についてご紹介します。
仕事内容のやりがいだけでなく給与、年収も考慮して就職先を考えることも大切なポイントです。
行政保健師の年収
公務員として働く行政保健師の全国平均は約500万円とされています。保健師として勤務を始めたばかりの場合、初任給の平均は約300万円程度からのスタートです。年功序列の職場であり勤務年数が長くなるほど確実に給料が上がっていきます。企業や病院の保健師と比べると収入は低いと言われていますがその分安定したボーナスや手厚い福利厚生が受けられます。
産業保健師の年収
民間企業で働く産業保健師の年収は就職先の企業によってさまざまです。全国平均は約500~600万円とされていますが、就職先によってはその他の保健師より高年収を目指せることが特徴です。例えば大企業の医務室に常駐してキャリアを積む保健師の中には年収1000万を超える人も存在します。しかし行政保健師のように勤務年数に応じて確実に年収が上がるという保証はないので、思うように年収が伸びないまま勤務年数を重ねてしまう場合もあります。産業保健師として年収アップを目指すのであれば、大企業への就職活動や転職活動が成功の鍵と言えるでしょう。
病院保健師の年収
病院保健師の全国平均年収は約400~500万円とされています。看護師の平均年収に比べるとやや高いという特徴があります。勤務先病院の給料形態によって保健師の年収は異なりますが、交代勤務制度のある病院で夜勤があるとより年収は高くなります。病院保健師の求人はその他保健師と比べるとまだまだ少ないため採用試験の倍率も高い傾向にありますが、高年収を狙うのであればこのような夜勤手当や業務手当のある病院を選ぶと良いでしょう。
学校保健師の年収
学校保健師の全国平均年収は約450万円とされています。ここで言う学校保健師は主に私立の学校で勤務する保健師を指します。国公立の学校で働く保健師は公務員に分類されるため、行政保健師の年収と同様の仕組みになっているのです。保健師の中では一番年収が低いと言われていますが、夏休みや冬休みなどの休暇が多く残業もほとんどないことが多いためプライベートを重視しながら保健師を続けたい人に向いているでしょう。
【まとめ】保健師になる道のりは厳しいが将来性がありやりがいも得られる
保健師の仕事内容や必要な国家資格、年収などについてご理解頂けましたでしょうか。
保健師になるためには看護師免許を取得した上で保健師免許を併せて取得するため、数ある国家資格の中でも取得までに大きな努力が必要とされます。しかし保健師になれば定年まで安定して働くことができ、最近では定年後もフルタイムで再雇用が可能となり将来性が高い仕事です。全保健師の離職率は平均2%と低く働きやすいことも想像できるでしょう。何より看護師と保健師という両方の観点から地域の人々の健康を生涯に渡りサポートする仕事のやりがいは大変大きいものです。
保健師になりたい人はまず自分に合った進路をじっくりと考えて、資格取得までの勉強を着実に行うことが最も大切です。
投稿者プロフィール
- AEAJアロマセラピスト、不動産会社勤務を経てフリーランスライターへ転身。愛知県在住で料理や美容、旅行が大好きです。現在は金融・ビジネス・キャリア・ライフスタイルなどの記事を執筆しています。未経験のジャンルでも綿密にリサーチをして積極的に取り組むことがモットー!いつもわかりやすく役立つ情報をお届けできることを目標としています。またライター活動を通した「理想のワークライフスタイルの実現」も追求中です。
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