「将来歯科医師を目指している」「社会人から歯科医師になるには?」
歯科医師は人々の口腔内の健康を通して、全身の健康にも貢献できるやりがいのある仕事です。歯科医療には法律で定められた定期健診もあるため、私たちの誰もが生まれてから一度は歯科医師のお世話になっています。歯科医師になりたいと考える人も多いのではないでしょうか。
今回は歯科医師の仕事内容や年収、国家試験合格率など最新情報をお届けします。歯科医師になるための進路や就職先についてもくわしく解説します。
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歯科医師の仕事内容は多岐に渡る
歯科医師は一般的に虫歯や歯周病の治療から、専門知識を必要とする歯列矯正、インプラント治療など多岐に渡ります。最近では口腔内の疾患を治療するだけでなく、美容の観点から歯を美しくする審美歯科治療にも注目が集まっています。
また歯科医師法により歯科治療を行うのは歯科医師のみと定められています。つまり同じ「医師」と名がついても患者の身体を診る医師とは異なり、口腔治療に特化したエキスパートであると言えます。
以下は歯科医師だけが携われる一般的な仕事内容です。
カウンセリング業務
患者のカウンセリングを行うことは全ての歯科医師に共通する業務です。一人一人に合った最善の歯科治療を行うためには、患者一人一人の要望や状態を知る必要があります。歯科医師は以下の内容をカウンセリングし、患者に最適な治療計画の提案を行います。
・患者の基本情報確認(年齢・基礎疾患の有無・妊娠、授乳の有無・服薬・アレルギーなど)
・レントゲン撮影を行い口腔内の状態を確認する
・患者が一番気になる症状について把握する
・口腔内全体の健康状態を確認する(虫歯や歯肉炎、歯周病などの有無)
・患者の望む費用や治療法についての確認(保険内適応/保険外適応など)
・患者が通院できるペース など
一般的な歯科治療
口腔内の二大疾患といわれる虫歯や歯周病の治療、歯や歯茎疾患の治療が主な仕事内容です。また噛み合わせは全身の健康にも影響を及ぼすため、治療を進めるにあたり患者の噛み合わせの調整を行います。
歯科医師としてのキャリアを積む過程で、最初にこのような一般歯科治療に携わる歯科医師が大半です。また口腔外科のある大学病院に勤務する歯科医師であれば、口腔外科手術やリハビリ業務にも日常的に携わります。
歯列矯正治療
歯列矯正に関する専門分野を勉強し「矯正歯科認定医」になれば、一般歯科治療だけでなく歯列矯正を行うこともできます。現在はさまざまな歯列矯正方法が出現し、患者は以前よりも比較的手軽に歯列矯正治療を受けられるようになりました。そのため歯列矯正を希望する患者数は子供から大人まで増加しており、歯科治療の中でも特にニーズの高い業務となっています。
インプラント治療
高齢化が進む社会ではインプラント治療も盛んに行われるようになりました。入れ歯やブリッジと違い人工の歯と歯根を作り顎の骨に埋め込むため、自然の歯と変わらない見た目と快適さを得ることができます。ただし外科手術を伴う治療のため、治療にあたる歯科医師には高度な技術が求められます。
審美歯科治療
一般的な歯科治療だけでなく、美容(見た目の良さ)を重視した治療を行うのが審美歯科治療です。例えば歯のホワイトニングや歯茎の色の改善、美しい歯になるためのセラミック治療も審美歯科治療の範疇です。近年女性歯科医師の増加傾向に伴い、審美歯科治療を専門に行う女性歯科医師が増えているようです。
警察歯科医業
事件や災害など身元不明遺体の口腔内を調べることで、身元確認を行う特殊業務です。歯科医師自ら志望したり、警察から要請を受けて警察歯科医業に携わる場合もあります。歯科医師の専門知識を使って、歯科治療とは違う形で社会貢献ができる業務です。
歯科医師の就職先は主に3つ
歯科医師には大きく分けて以下3つの就職先があります。各就職先により働き方や待遇が異なるため、歯科医師として目指す方向性を明確にして検討する必要があるでしょう。
①歯科医院
歯科医師の就職先で最も多いのが歯科医院です。歯科医師免許を持つ人の約85%が、就職先に歯科医院を選択しています。そして歯科医院勤務医の中で約57%は開業医、約28%が勤務医と言われています。
②大学附属病院
口腔外科のある大学附属病院を就職先に選択する歯科医師もいます。臨床研修期間に配属された大学病院や母校の大学附属病院で勤務する歯科医師が多いようです。歯科医院では行えない口腔外科手術を伴う治療が多いため、特に外科歯科治療の技術を磨くことができます。
③公務員
歯科医師として国公立の病院や厚生労働省、自衛隊で働く場合は「公務員」となります。厚生労働省に就職した歯科医師は「医系技官」、自衛隊では「歯科医官」と呼ばれ、将来性のある有望な就職先と言われています。毎年応募者が多く採用試験は非常に難関な点も特徴です。
- 医系技官(厚生労働省):国民の保険や健康に関する制度をつくる行政官として勤務
- 歯科医官(自衛隊):主に自衛隊の各基地や駐屯地の医務室に歯科医師として勤務
歯科医師の平均給与と年収
歯科医師の給与や年収は、年齢、勤務形態や就職先によって異なります。厚生労働省の統計は全ての歯科医師平均年収を約655万円と発表しています。今回は雇用形態別での歯科医師の平均給与と年収について見ていきましょう。※以下は2019年度のデータを元にしています。
開業医
開業医の平均年収は約1200万円とされますが、患者数や治療内容によって大きく異なります。開業医は歯科医師の技術だけでなく、歯科医院の運営を続けていく経営手腕も年収に大きく関わります。
- 年間収益:約4070万円
- 費用:-約2880万円(給与/備品/医薬品/設備費など)
- 損益差額(年収):約1190万円
歯科医院を開業するには約5000万円以上の資金が必要と言われています。そのため開業後すぐに利益を出すことは一般的に難しいでしょう。
勤務医
勤務医の平均年収は約620万円です。しかし歯科医師の年齢や勤務する歯科医院によって年収には大きな差が出ます。
- 平均給与:約586万円
- 賞与:約34万円
- 年収:約620万円
最近は主に自由診療のみを扱う歯科医院も増えています。その場合歯科医師の実力により給与に差が出てきます。例えば固定月給30万円に歩合給が加わり、月給が100万円を超える勤務医も存在します。
パート・アルバイト(非常勤歯科医師)
臨床研修期間を経て勤務を始めたばかりの歯科医師で非常勤という雇用形態を選択する人はほとんどいません。しかし女性歯科医師は妊娠、出産などでライフスタイルが変化し、フルタイムでの勤務が難しい場合に非常勤という働き方を選択することもあります。
非常勤歯科医師であれば複数の歯科医院で掛け持ちをして働くことも可能です。
- 平均時給:約2000~5000円(勤務先により異なる)
- 賞与:なし
臨床研修期間(研修医)
臨床研修施設先で月収は異なりますが、賞与はありません。月収20万円を超える臨床研修施設もありますがごく僅かです。
臨床研修期間
月収 約12~15万円
※臨床研修期間中のアルバイトは禁止されています。そのためこの期間の生活費などのやりくりについて事前にマネープランを立てる必要があるでしょう。
歯科医師を目指すための進路と国家試験合格率
歯科医師になるまでの進路や国家試験についてご紹介します。
歯科医師になるまでに必要な進路
歯科医師として勤務できるようになるまでに、まず高校卒業後に大学の歯学部か歯科大学へ入学し最低6年間学びます。そして卒業後に歯科医師国家試験の受験資格が得られ、合格後1年以上の臨床研修を積み歯科医師となります。
また社会人となってから歯科医師を目指す人も、大学の歯学部か歯科大学へ入学しなければなりません。独学や予備校で大学受験に合格するための勉強期間が約1年以上必要と言われています。歯学部以外の大学から歯学部、歯科大学へ転入する場合も同様です。
大学は国公立と私立大学で学費が約8倍異なり、私立大学を卒業するまでに平均で2000~3000万円ほどの学費がかかります。そのため毎年国公立の大学の受験者が多く、難易度がより高い傾向にあります。
高等学校卒業
↓
大学の歯学部または歯科大学へ入学・卒業(6年制)
↓
歯科医師国家試験受験資格・合格
↓
1年以上の臨床研修期間(母校での研修/その他大学病院での研修/一般病院歯科口腔外科での研修/開業医での研修から選択可能)
↓
歯科医師として勤務
海外の歯科医学校を卒業した人や、外国の歯科医師免許を取得している人が日本で歯科医師として働きたい場合も日本の歯科医師国家試験を受ける必要があります。以下の2つの条件を満たすと歯科医師国家試験受験資格が与えられます。
- 歯科医師国家試験予備試験に合格し、1年以上の診療や口腔衛生の実地修練を行った者
※歯科医師国家試験予備試験とは、外国の歯科医学校卒業者または歯科医師免許取得者が受けられる試験です。
- 外国の歯科医学校卒業者および免許取得者であり、日本の基準と同等以上の学力や技術を有すると厚生労働大臣から認められた場合
歯科医師国家試験に合格した後は1年以上の臨床研修期間を経て歯科医師となれます。
2021年国家試験合格率は64.6%
2021年度に行われた歯科医師国家試験の合格率は64.6%という結果でした。この合格率は内科医や外科医などの医師国家試験の合格率91.4%に対し、低い水準と言えます。
歯科医師国家試験の合格率が低い理由は、2014年度から試験の難易度が上がったことが要因です。以前は医師国家試験合格率とあまり変わらない数値でしたが、2014年を境に約64~65%を推移しています。
1960年代日本では歯科医師の人数が不足していたと同時に、欧米の食文化が一般に普及し始め虫歯患者が増加していました。そのため政府は大学の歯学部や歯科大学を増設したり、定員を大幅に増やしたりと歯科医師不足の解消を図る政策を試みたのです。
しかし近年では歯科医師の人数が過剰になる反面、人々の口腔衛生に対する意識の高まりから虫歯患者数が減少しています。全国の歯科医院数もコンビニエンスストアの約1.5倍と言われており、歯科医師の人数が飽和状態となりました。そのため歯科医師数を調整する目的で、国家試験の難易度を上げる対策が取られたのです。
歯科医師国家試験の内容と合格基準
歯科医師国家試験では以下の内容と合格基準が設けられています。
- 領域A(総論):53点以上/100点
- 領域B(各論1・2):107点以上/167点
- 領域C(各論3・4・5):129点以上/206点
- 必修問題:63点以上/178点
領域Aとは
「歯科医学総論」とも言います。主に医療総論・衛生/基礎系科目/臨床系科目の総論分野が出題されます。
領域Bとは
各論1:歯科疾患の予防・管理(衛生)や成長発育に関連した疾患・病態(矯正/小児)
各論2:歯・歯髄・歯周組織の疾患(修復/歯内/歯周)が出題されます。
領域Cとは
各論3:顎・口腔領域の疾患(口腔外科/麻酔/放射線)
各論4:歯質・歯・顎顔面欠損と機能障害(全部床/部分床/歯冠義歯)
各論5:高齢者などに関連した疾患・病態・予防ならびに歯科診療が出題されます。
必修問題とは
必修問題は出題範囲が決まっておらず、大学で一度は勉強している「基礎系科目」や「臨床系科目」などあらゆる問題が出題されます。そのため勉強方法が最も難しい項目です。歯科医師国家試験専門の予備校へ行く人や、予想問題集などを使って勉強するのが一般的と言われています。
【まとめ】歯科医師になるのは簡単ではないが生涯続けられる仕事
歯科医師の幅広い仕事内容や歯科医師になるまでのステップなどについてご理解頂けましたでしょうか。
歯科医師として働けるようになるまでには、難関と言われる大学受験や歯科医師国家試験を突破し臨床研修も経験しなければなりません。更に開業医を目指すのであれば歯科医院の経営についても学ぶ必要があるでしょう。このように歯科医師になるのは簡単ではないのです。
しかし「歯科医師になりたい」という高い志を持って、ストイックに勉強を続けられる人であれば歯科医師になることは十分可能です。歯科医師は定年がなく生涯に渡って続けられる点も魅力の一つです。例え歯科医師になるまでに多大な労力や時間を費やしたとしても就く価値があると言えるでしょう。また高齢化社会に伴い歯科医師のニーズは今後増えていくと予想され、収入面の安定性もやりがいも大きな仕事です。
歯科医師を目指す人は自分が歯科医師になるまでの進路について慎重に検討し、実現に向けて着実に行動する必要があります。